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医院開業〜メディカルコラム〜

看護師・介護支援専門員
高井 幸恵

国立病院勤務を経て在宅医療・介護を専門としたコンサルティングを行う。メディックス総合研究所取締役



介護保険制度改革に向けて


2000年に施行された介護保険も、2006年の制度改革を目前に控えています。最近では徐々にメディア等を通じて具体的な改正案が明らかになってきました。しかし、それは国民にとって必ずしも良い方向に向かうものであるとはいえないようです。今回は改正が検討されている点や、そこから浮かび上がる問題を、実際の介護現場の動向を交えながらお話したいと思います。まず、現場の声と併せて在宅系サービスと施設系サービスについて、特に注目したい項目をお話します。


在宅系サービス
社会保障審議会・介護保険部会資料によると、在宅系サービスに関しては、改正案の一つとして「予防重視型システム」への転換として、市区町村を責任主体とする「統一的な介護予防マネジメント」の確立を掲げています。ここには、改正が検討され始めた当初から耳にする「要支援、要介護1の認定を受けた方の介護保険サービスの利用を中止する」という点が含まれています。これは介護者全体の5割近くに達する「要支援、要介護1」の軽度介護者への介護サービスが、利用者の改善に達していないという指摘からでてきたものです。しかしながら、そもそも介護保険本来の目的は、自立支援、寝たきりを防ぐということであったはずです。そうした支援を最も必要とするのは要支援、要介護1の方々ではないのでしょうか。
また、もうひとつの問題として、市区町村が責任主体となると、地方自治体によってサービスのばらつきが出てくる可能性があります。サービスの低下から、満足のいくサービスを受けるために、自費負担せざるを得ない方々が増加する可能性も出て来ます。そうなると、全国どこでも公平なサービスを提供するという介護保険制度創設の趣旨とは異なる方向へ向かっていく事になってしまうのではないでしょうか。


現場からの声
ある在宅ドクターのお話では、昨今では在宅医療を受ける患者さんも医療依存度が非常に高く、介護度も比例して高くなる傾向があり、それらの患者さんは介護保険の支給限度内では十分なサービスが受けられていないのが現状で、泣く泣く自費で必要なサービスを補うしかない場合も多く、介護保険制度開始後も決して負担が軽減しているとはいえない現状があるとのことです。そして、こうした負担が大きいにも関わらず、国民の多くは在宅療養を望み、最終的には在宅で看取られることを希望するケースが多いのです。これは、厚生労働省のアンケート結果からも明らかで、痛みを伴うような場合であっても、国民の27%は在宅療養を希望しているのです。しかし、実際に可能かどうかと問われると、在宅療養の割合は8.3%まで下がります。わが国には、多くの不安を抱えて在宅療養を望みながらも、施設を希望せざるを得ない現状があるのだということを、国はもっと真剣に受け止めるべきではないでしょうか。国民の在宅療養に対する不安を取り除く責任が、国にはあるはずです。在宅医療の現場からは、「足切りするなら、上限をあげろ」という声が響いています。


施設系サービス
施設系サービスに関しては、利用者負担額の引き上げ、居住費や食費の徴収などが挙げられています。先日も新聞記事に「費用の嵩む施設志向から在宅介護への流れを促進するために、保険給付の見直しが必要」と書かれていました。現場で実感するのは、依然として強い「施設傾向」です。前段でも述べましたが、重症度が高くなるにつれて在宅での介護が困難になるため、施設の需要が高いのです。在宅介護も困難、施設系サービスも「値上がり」では、国民の負担が重くなるばかりです。


今回の改正案の中身は、率直なところ「給付費抑制のための改正」であると言わざるを得ない部分があり、あまりにも現場の声との矛盾があると感じています。机上の空論では決して見えてこない現実があることを理解し、現場の声に耳を傾け、改善していくことこそが、本当の意味で国民が求めている改正なのではないのでしょうか。


最後に、改正に伴う介護事業への影響を考えてみましょう。


ケアマネージャーの重要性
ケアマネージャーの確保は、今後も重要になりそうです。現在、ケアマネージャー1人につき50人のマネジメントを基本に制度設計されています。平成15年10月の厚生労働省のアンケート結果ではケアマネージャー1人当たりの平均受け持ち人数は42.4人ですが、ケアマネージャー対象の調査によると、44.6%の有資格者が、妥当な担当件数は21〜30人であると回答しています。 今回の改正案の中でも、ケアマネージャー1人当たり標準担当件数の見直しが含まれています。


介護の現場から
介護の現場では逆の現象がおこっています。つまり、ケアマネージャー不足の深刻化です。事業者からは「募集しても集まらない」、利用者からは「担当ケアマネージャーが頻繁に替わって困る」といった声をあちこちで耳にします。事業所では、ケアマネージャー不足によって新規患者の獲得がままならず、新規依頼が来てもお断りせざるを得ない状況になっています。またせっかく有資格者を有していても、非常勤では負担が大きいなどの理由で、実働していない場合も多いようです。しかしながら、新規利用者の獲得拡充のためにも、きめ細やかな質の高いケアプランを作成するためにも、ケアマネージャーの実働人数確保が必須であるといえます。


また、改正案の一つ「総合的な介護保険予防システム」の確立という点では自立を促進するためのプログラムとしてリハビリサービスの拡大が考えられます。理学療法士の需要も拡大することが予想され、今後注目していきたいと思います。